もっと身近な例を見てみましょう。風邪、なかでも冬場に猛威を振るうインフルエンザにも、口腔ケアによる予防が有効であると言われています。
奈良県歯科医師会が実施した調査で、高齢者に対し、週に1回歯科衛生士によるブラッシングや舌みがきの指導を実施した介護施設と、通常通りの歯みがきをしていた介護施設とで、インフルエンザの発症率の比較を行ったものがあります。
歯科衛生士による指導を受けた施設では、通常の歯みがきをしていた施設と比べ、なんとインフルエンザ発症率が10分の1まで激減することが示されたのです。
また2009年には、東京都杉並区の2つの小学校において、生徒に昼食後の歯みがきを徹底させたところ、同じ区内のその他の小学校と比較して、インフルエンザの発症率が激減したと報告されています。
なぜ口腔ケアを行うことで、インフルエンザの発症率を抑えることができるのでしょうか。
インフルエンザウイルスは、口の中に侵入すると、まず喉の奥にとりついて粘膜上で増殖し、その後、悪さを始めます。
このウイルスの増殖の手助けを行うのが口の中の細菌(口内細菌)なのです。口内細菌は、ウイルスが粘膜に吸着し増殖するのを助けるプロテアーゼやノイラミニダーゼといった酵素を生み出し、ウイルスが感染しやすいよう働きかけるのです。
当然、口内細菌が多ければ多いほど、そうした酵素の働きが強力になりますから、ウイルスに感染しやすくなります。
逆に、口腔ケアが行き届いていて、口内細菌が少なければ、酵素の働きが弱くなるため、ウイルスの感染リスクが小さくなります。
実は、インフルエンザの特効薬として有名なタミフルは、インフルエンザウイルスに直接的に作用するのではなく、このノイラミニダーゼの働きを妨げることで、ウイルスの感染拡大を防いでいるのです。
インフルエンザ予防といえば「マスク、うがい、手洗い」がまず挙がります。もちろんそれらは有効です。しかし、口腔ケアもまたインフルエンザ感染の予防に大きくつながることについては、いまだ十分に周知されていません。本書をお読みのみなさんは、口腔内を健康に保つことがインフルエンザ予防に非常に効果的であることを、周りの方にもぜひお伝えください。
一流の人は風邪もなかなかひかないものです。それは自己管理能力の高さの証拠で、運や遺伝的な身体の強さとかではなく、規則正しい生活や清潔、衛生習慣を身に着けていることからくるものなのです。

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