歯並びは、子どもの未来を静かに左右する
グローバル化が進む社会で、歯は第一印象になる
私自身、幼い頃に両親が矯正治療を受けさせてくれました。おかげでイギリス留学中も、歯のことで嫌な思いをせずに済みました。もしあのとき矯正していなかったら、どれほど扱いが変わっていただろうと、鏡を見ながら考えたことがあります。両親の判断に、今でも感謝しています。
グローバル化がさらに加速するこれからの時代、欧米人と仕事をする機会は確実に増えていきます。そのとき、歯並びというだけで「関わる価値のない人間」とレッテルを貼られ、チャンスを失う。そんな未来をあなたは想像できますか。我が子がそう扱われることに、親として耐えられるでしょうか。
歯並びは遺伝的な要素が強く影響します。あなた自身が歯並びにコンプレックスを持っているなら、お子さんも似た状況になる可能性が高い。それは避けられない現実として向き合う必要があります。
日本の歯への意識は今、確実に変わりつつある
かつては、多少歯並びが悪くても周囲があまり気にしなかった時代がありました。矯正する人自体が少なく、それが当たり前だったからです。しかし時代は変わっています。日本でも歯に対する意識の欧米化が着実に進んでいて、子どもが成人する頃には、今の常識が非常識になっているかもしれません。
歯並びだけの話ではありません。幼い頃から虫歯のない健康な口内環境を整えることは、子どもの将来の健康そのものに直結します。日々の歯磨き習慣に加えて、小児歯科での定期検診やフッ素塗布といった専門的な予防処置は、将来の歯の健康を守る土台になります。
所得格差が、子どもの口腔の健康格差を生んでいる
経済的な余裕が、歯科受診の頻度を決めるという現実
現在、世界的に格差の問題が深刻化しています。国家間の格差だけでなく、日本国内でも富裕層と低所得層の開きは広がる一方です。この所得格差は、健康格差に直結します。所得や学歴といった社会経済的な背景の違いが、受けられる医療の質や健康状態そのものに差をつけてしまうのです。
アメリカではすでに健康格差が顕在化していて、経済的に貧しい州ほど肥満率が高い傾向があります。日本は保険制度の整備により欧米ほどの格差は生じにくいとされてきましたが、実態は違います。子どもの歯の健康に、格差はすでに如実に現れ始めています。
2016年に兵庫県保険医協会が実施した調査では、小中高・特別支援学校を対象に、親の所得や学歴が低いほど子どもの虫歯が多いという結果が明らかになりました。学校歯科検診で要受診とされた約3万5千人のうち、歯科への受診が確認できなかった子どもが約2万3千人、全体の65%に上ります。
口腔崩壊という現実が、子どもたちに広がっている
治療されていない虫歯が10本以上ある状態を口腔崩壊と呼びます。この状態にある子どもが在籍している学校の割合が、35%にも達していました。
原因は一つではありません。児童虐待や育児放棄が背景にあるケースもあります。ただ多くの場合、両親が仕事で手いっぱいで子どもの歯に気を配る時間がない、歯科医院に連れていく経済的余裕がないというのが実態です。特に目立つのはシングルマザー世帯で、時間的にも経済的にも追い詰められた状況の中、食事がカップ麺や菓子類に偏りがちになり、それが口腔環境をさらに悪化させます。
虫歯は自然には治りません。放置するほど進行し、最終的には口腔崩壊へと向かっていく。むし歯治療を受けられないまま歯を失う子どもたちが、今この瞬間も各地にいるという事実は、一家庭の問題にとどまらず、社会全体で受け止めるべき課題です。歯科医師として、そのことを多くの親御さんに知っていただきたいと思っています。

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