噛むことは、脳を育てる行為でもある
口は、外界と脳をつなぐ情報の入り口
歯の役割は食べ物を噛み砕くことだけではありません。噛むという動作が脳に与える刺激は、脳の発達および日常的な活動において非常に大きな意味を持っています。
人間の五感の大半は口を中心に集まっています。唇、舌、目、鼻、耳、外部からの情報を収集し脳へと伝える働きの多くが、口の周囲で行われています。だからこそ、虫歯で歯が崩壊して噛めない状態になると、脳への刺激が大幅に減り、さまざまな悪影響が出てくる可能性があるのです。
よく噛む子どもは、記憶力と学習能力が高い
子どもの頃から「よく噛んで食べなさい」と言われてきた方は多いはずです。咀嚼が消化吸収を助けることは広く知られていますが、近年の研究では、よく噛むことが子どもの学力にも影響を与えうる可能性が言われています。
動物実験でこんな結果が出ています。離乳期から成長期にかけて、固形のエサと粉末状のエサを与えたマウスを比較したところ、固形食グループのほうが咀嚼筋の発達が優れており、記憶力や学習能力のテストでも高い結果を示しました。両グループのマウスの海馬を分析すると、記憶や学習能力を司るこの神経組織において、固形食を食べていたマウスのほうが神経細胞の数が多く、海馬そのものの発達も進んでいました。成長期に食べ物をよく噛むことで咀嚼筋が活発に動き、脳神経が刺激を受けて発達する。その結果として、記憶力や学習能力の向上につながるという流れが、この実験から見えてきます。
噛む刺激は脳の中枢に届き、記憶・思考・感覚・意欲・運動に関わる各部位を活性化させることもわかってきています。よく噛む習慣は、感覚能力や運動能力の向上にも関与している可能性があります。
虫歯を放置すると、学力にも直接影響する
噛めない状態が続くと、脳への刺激が減る
成長期に虫歯で歯が痛くて噛めない状態が長く続いたとき、何が起きるかを考えてみてください。まず歯科への通院で勉強時間が削られます。これだけでも学力低下の直接的な要因になります。噛めない状態が続くと、顎の発育や舌の動きが妨げられ、歯並びにも影響が出てきます。
さらに、噛むことが脳の発達にもたらす影響を踏まえると、噛めない時間が長引けば長引くほど脳への刺激が減り、集中力や思考力の低下につながる可能性も否定できません。むし歯治療を後回しにすることは、子どもの学習環境を静かに蝕んでいく行為でもあります。
口の健康は、塾よりも先に整えるべき土台
学力を伸ばすために学習塾に通わせたり、習い事をさせたりすることは大切です。ただ、それよりも先に取り組むべきことがあります。お子さんの口の健康に目を向けるということです。
海外や日本の富裕層が子どもの歯に惜しみなくお金をかけるのは、見栄でも見た目のためでもありません。歯と口の健康が、子どもの知能・身体能力・全身の健康に深く関わっていることを、彼らはすでに理解しているからです。小児歯科での定期検診、フッ素塗布、正しい歯磨き習慣こうした予防歯科の積み重ねが、子どもの可能性を広げる基盤となります。

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