噛む力を鍛える方法とメリットと注意すべき咀嚼力衰えのサイン

硬いものを噛むとあごが疲れる。食事に前より時間がかかるようになった。そんな小さな変化をきっかけに、噛む力が気になり始める方は少なくありません。

食べ物を噛み砕く咀嚼の力は、あごを動かす筋肉、舌や頬の動きが組み合わさって生まれます。筋肉によって支えられている力なので、鍛えようと思えば何歳からでも鍛えられます。器具を使ったトレーニングをせずとも、食べ方と口の動かし方を変えれば筋肉は働き始めます。

目次

噛む力の衰えに気づくサインと原因

食事の場面にあらわれる変化

噛む力の衰えは、普段の食事であらわれます。気づくと、やわらかいおかずばかり選んでいる。お肉や漬物を噛み切るのに手間取る。食べ終わったあと、歯と頬のすき間に食べ物が残っている。汁物でむせる、食べこぼしが増える、さらには口が渇きやすいといった変化もあります。どれも舌や頬、唇の筋肉、そしてだ液の分泌が低下したときに起こります。年齢のせいにされがちですが、口の機能が衰え始めてきたサインでもあります。

噛む力が落ちる原因は歯と筋肉にある

噛む力が落ちる原因として、まず歯のトラブルがあります。虫歯や歯周病で痛む歯、ぐらつく歯があると、無意識にその歯を避けて噛むようになります。合わない入れ歯も同じで、噛める食べ物が少しずつ減っていきます。
また、筋肉の衰えも、噛む力が落ちる原因になります。あごを動かすために使われる筋肉は、使う機会が減れば減るほど細くなっていきます。やわらかい食事が続く、早食いで噛む回数が少ない、片側だけで噛む癖がある。こうした習慣に、加齢による筋力の低下も重なります。
歯が痛むから噛まなくなり、噛まないから筋肉が衰える。この流れを止めるには、歯の治療と筋肉を使う習慣の両方が必要です。

噛む力を鍛える方法

ひと口ごとに噛む回数を増やす

いちばん手軽なのは、いつもの食事のまま噛む回数を増やすことです。ひと口食べたら箸を置き、口の中のものを飲み込んでから次の料理に手を伸ばす。それだけで、噛む時間は自然と長くなります。

飲み物で流し込む食べ方は控えてください。だ液と混ざってやわらかくなるまで噛むと、あごの筋肉はしっかり働きます。

歯ごたえのある食材を献立に加える

ごぼうやれんこん、にんじんなどの根菜、きのこ、小魚、玄米は、噛むたびにあごの筋肉を使う食材です。野菜を大きめに切り、加熱しすぎずに歯ごたえを少し残すだけでも、噛む回数は変わってきます。やわらかい料理を避ける必要はありません。献立のどこかに噛みごたえのあるおかずがあれば、無理なく続けられます。

砂糖の入っていないガムを左右均等に噛む

食後や仕事の合間には、ガムが手軽な筋肉を鍛える練習相手になります。砂糖入りのガムは、虫歯菌にエサを与え続けるようなものなので、シュガーレスガムやキシリトール入りのガムを選んでください。噛む側は右と左で交互に入れ替えます。片側だけで噛む癖がある方は、ふだん使わない側を意識して動かすと、左右の筋肉をむらなく鍛えられます。

舌と頬と唇を動かす口の体操

噛む力は、あごの筋肉だけでは発揮できません。食べ物を歯の上へ運ぶのは舌で、歯と頬のすき間に落ちたり口からこぼれたりしないよう支えるのは、頬と唇です。

舌を前に出して左右の口角に触れる。唇の裏側をなぞるようにぐるりと回す。舌先を上あごにぐっと押しつける。どれも舌の筋肉を鍛える動きです。唇をしっかり閉じて頬をふくらませ、空気を左右に移せば、頬と唇の筋肉を同時に使えます。歯みがきのあとのぶくぶくうがいも、頬を大きく動かせば同じ練習になります。

こうした体操は、食事の前に行うとだ液が出て、口の動きもなめらかになります。会話のときに口をしっかり開けてはっきり話すことも、舌と唇、頬のトレーニングになります。

噛む力を鍛えるメリット

消化を助け、食事をしっかり味わえる

よく噛むと食べ物は細かく砕かれ、だ液と混ざります。だ液に含まれる消化酵素により、口の中で食べ物の分解が始まります。胃や腸に届く前に下ごしらえが進むので、そのぶん消化の負担が軽くなります。

噛むたびに素材の味や香りが口に広がり、同じ料理でも味わいが深くなります。

だ液が増えて虫歯や歯周病を防ぎやすくなる

噛む刺激はだ液の分泌を促します。だ液は食べかすを洗い流し、食後に酸性へ傾いた口の中を中性に戻し、溶けかけた歯の表面を修復する再石灰化も助けます。口の中が潤えば、口臭も抑えやすくなります。

とはいえ、だ液が増えても歯みがきの代わりにはなりません。歯ブラシで汚れを落とし、だ液で歯を守る。両方がそろってはじめて、虫歯や歯周病を防ぐ力が高まります。

食べすぎを防ぎ、脳への刺激にもなる

ゆっくり噛んで食べると、満腹感が脳に届くまでの間に食べる量が抑えられます。早食いを直したい方や体重が気になる方にとって、食事の量を我慢するより取り入れやすい方法です。

噛む動きは脳にも良い刺激を届けます。眠気覚ましや気分転換にガムが選ばれるのも、噛むと脳に血流がいき、すっきりすると考えられているからです。噛む力と脳の働きとの関わりは、歯科でも研究が続けられているテーマです。

飲み込む力と話す力を保てる

噛み砕いた食べ物をひとまとめにして、のどへ送り込む。この飲み込む動きにも、噛むときと同じ舌や頬の筋肉が働いています。噛む力を鍛えることは飲み込む力を保つことでもあり、むせにくい口をつくります。

また同じように、言葉をはっきり発音するときや表情をつくるときにも使われます。滑舌の衰えや食べこぼし、わずかなむせといった口の働きのささいな低下は、オーラルフレイルと呼ばれます。早いうちに気づいて口を動かす習慣を見直せば、健全な状態に取り戻せる段階です。

噛む力を鍛えるときの注意点

硬いものを無理に噛まない

口周りの筋肉を鍛えようとして、硬いせんべいや乾物を毎日のように噛み続けるのはおすすめできません。急に強い負荷をかけると、歯が欠けたり詰め物が外れたりすることがあり、あごの関節に痛みが出る方もいます。

強く噛みしめることと、鍛えることとは別物です。食いしばりは歯とあごに負担をかけるので、力を込めるより、「回数を重ねる」という意識で噛んでください。口を開けるとあごが鳴る、痛むといった症状があるときは、無理に噛もうとせず歯科医院で診てもらいましょう。

歯や入れ歯の不具合を先に治しておく

歯科医師の立場から何よりお伝えしたいのは、歯の痛みやぐらつき、合わない入れ歯、噛み合わせの違和感をそのままにしておかないことです。噛みにくい場所をかばいながらの状態が続くと片側噛みの癖が強まり、かえって左右の筋肉のバランスを崩します。

虫歯や歯周病の治療、入れ歯の調整を済ませておけば、食事の工夫も口の体操も痛みを気にせず続けられます。歯科医院によっては、噛む力や舌の力を測る検査も受けられます。定期検診で今の状態を知っておくと、日ごろの訓練を続けたあとの変化がわかるでしょう。

噛む力は、食卓で育てていける力なのです。

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